ガンガン介護

 

最初に発病した時の化学治療中、抗がん剤の副作用が出る投与数日後、私はひどい目まいとだるさと吐き気の中、息子の夕飯を作っていました。買い物は行けないので、宅配を利用していましたが、時々幼児に食べさせるのには固いお肉や食べにくいお魚など、こちらが必死になって作っても息子はなかなか食べくれようとはしませんでした。体調が悪ければ寝ていればいいのですが、せっかく生まれてきた子供に少しでも母親らしいことをしてあげたい。焦る気持ちが無理をさせたのでしょう。自己満足です。健康な母親が健康的に作った料理だから美味しいのかも知れませんね。

 

2週間ごとに抗がん剤を投与しに通院し、あまりのつらさに正直その度に現実逃避したいと思っていました。

そんなある日、当時まだ元気だった母から度々電話がくるようになりました。「しんどい‥」私は母の声を聞くと泣きそうになりました。「もう逃げたいよ‥」。弱音を吐いてしまいました。母は「何言ってるの!」。そう、ホントに〝何言ってるの!〟です。しかし、その後に続いたのは「ねえ、そんなことより。どうやったら死ねる?貴方だったら詳しいでしょ?抗がん剤もやりたいんだけど、どうしたら出来るかしら?私の友達もやってるのよ」。ハイテンションで話す母。呆気に取られ、とても腹が立ち、私は「それって失礼じゃない?必死に生きるために頑張っている人に対してそういうことを言うのは!」。しかし、そのような電話は続きました。次第に〝母アレルギー〟にかかり、母から電話があると倒れてしまい、救急で病院に運ばれるようになりました。あまりのストレスでヒューズが飛んだ状態になっているというのです。それに血小板の数値が低い時に倒れると、それこそ命の危険があると、さすがに何度か続いた後、お医者様から厳重注意を受け、このままだと、せっかくの治療もいい方向に進まないと、少し距離を置くことにしました。

 

抗がん剤の副作用はそのうち慣れると高を括っていましたが、投与すればするほど、身体のダメージがひどくなっていくようでした。治療が終わったらハワイに行く!ずっと励ましてくれたハワイ在住の友達と約束をしました。私の治療も最後の1クール。ハワイの前にやらなければならないこと。母を病院につれて行くこと。もしかして精神的な病気があるのではないかしら?

予定のクールが全て終了し、寛解が出る前に、まずは母のいる実家へ。何でもやっていた父がいなくなり、鬱になってしまったようでした。でも、お友達からの誘いがあると異常なハイテンションで出かける、その繰り返し。私は掃除をし、買い物、そして病院へ。また別の日には市役所でヘルパーの手配、ケアマネジャーと打ち合わせ。暑い夏の日、何度も通いました。市役所の福祉課の担当の方からは、「お母さんのことも大事ですが、まず小さな子供がいる病み上がりの自分のことを考えなさい!」とお叱りを受けました。はい、その通り。環境を整えたら、自分のことを考えます!とはいうものの、まだ血液検査の数値も戻っておらず、さすがに体力はヘロヘロ、治療を終えたという気力だけでもっていました。

 

夏休みが終わり、子供の幼稚園の送りは区のファミリーサポーターの方にお願いし、迎えは少しずつ私が出来るようになってきました。息子の幼稚園は皆さん親御さんが送迎をしていらっしゃるので、迎えに行くと息子はいつも安心した笑顔でこちらを見つめていました。その笑顔がたまらなく、また私は無理をしてしまうのですが、身体のダルさは相変わらずでした。

 

それからも母からの〝死ねる方法教えて〟電話は度々留守番電話に残されていました。

 

それから間も無く、母は5年前に発症した乳がんが骨に転移していることがわかりました。しかし、母は生きることを拒み、緩和ケアを選び、数カ月後、この世を去りました。

最期まで大変な母でした。

本当にあっという間でした。人間というものは、あきらめたらこんなに早くに逝ってしまうなんて。

 

私が元気でもっと自由な時間と心に余裕があったら、もっと別の方法があったかも知れません。ごめんね、お母さん。

 

世の中には私のようなガンガン介護をしている人もおられるのでしょう。ガンを一人で乗り越えることは大変です。看病は家族がするものと 考えてしまいがちですが、中には看病してくれる家族がいない方、看病したくても出来ない事情のある方、私のように小さな子供を抱えて癌になってしまったお母さん、いろんなケースがあります。私は自分のこと、母のことで区や市の方に相談にのって頂き、お陰様で助けて頂きましたが、高齢者用のヘルパーさんはお願い出来てももう少し若い世代が手を貸して欲しいという要望にはなかなか応えてもらえないことを知りました。ガンガン介護はまれなケース’かも知れませんが、若くても病気や怪我で一時的に身体が動けない人たちもいらっしゃいます。そういう方々も利用できる幅広い制度が出来たらいいなと思いました。

 

 

 

 

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